【イベントレポート】『有名建築事典』刊行記念トーク──“建築を伝える力”をめぐって
はじめに 2025年9月27日(土)、学芸出版社主催の『有名建築事典』刊行記念トークイベント「有名建築ここだけの話」が開催された。会場は、著者の一人でもある建築家・中山佳子さんの自邸「INOKASHIRA 2.0」。 本書の著者陣が一堂に会し、編集の裏側から建築を伝える言葉の選び方まで語り合った。ARCHIES編集部は協力として記録・取材を担当。本記事では、建築とメディアが交差した現場の熱気をレポートする。 (提供:株式会社中山佳子設計企画 撮影:キム・グァンリョン) 会場見学:暮らしと建築のあいだにある「緩衝地帯」 イベントは、まず中山さん自身による自邸紹介から始まった。住宅兼事務所として設計されたこの建物は、プライベートとパブリックの境界を柔らかくつなぐ「三角形の空間」を持つ。 中山:「事務所としても家としてもイベントスペースとしても使える。その切り替えを支えるのが、この中間領域です。」 スキップフロアで構成された内部は、光と奥行きが連続し、小規模ながら豊かな広がりを感じさせる。外に向けた50度の斜めの構えは、隣家の緑を借景として取り込み、閉鎖的な旗竿地に開放感をもたらしていた。 中山さんは、隣家との低いフェンスの協議や共同でつくり上げた庭の経緯を振り返り、 中山:「共通の資産としての庭が、いつの間にか生まれていた。」 と語った。フェンスを足元程度に低くすることで隣家との対話が生まれ、結果的に緑がつながる“共有の庭”が形成された。小さな家でも環境を巻き込みながら風景をつくることができる──その実践を住みながら示していた。 (提供:株式会社中山佳子設計企画 撮影:キム・グァンリョン) 建築学生のアイスクリーム屋台「Tokeru」 庭先では、建築学生によるアイスクリーム屋台「Tokeru」も出店。手作りの移動屋台で、2種類のフレーバーと2種類のトッピングを提供していた。実は、この移動屋台はコンパクトに収納でき、電車にも持ち込めるらしい。 (提供:株式会社中山佳子設計企画 撮影:キム・グァンリョン) 来場者同士がカップ片手に語り合う姿があちこちに見られ、学生の企画が世代を超えた交流のきっかけとなっていた。 トークセッション:「有名建築ここだけの話」 『有名建築事典』は、建築を教える人・つくる人・伝える人が集い、3年の歳月をかけて編まれた一冊だ。 日が暮れ始めたころ、リビングを舞台に本編のトークセッションがスタート。『有名建築事典』の著者・編集者が登壇し、制作過程や建築を伝える意義を語り合った。 企画発案者の種田元晴さんは、 「建築士試験で覚えるべき対象として扱われる作品を、もっと文化として伝える形にしたかった」 と語り、本書が教育と出版のあいだをつなぐ意図を持っていたことを明かした。 (提供:株式会社中山佳子設計企画 撮影:キム・グァンリョン) 本書では500件の建築を収録しており、選定にあたっては「どの建築を“有名”と呼ぶか」という議論が繰り返された。 「有名とは、“アクセスのしやすさ”と“影響の深さ”の交点にある」 という言葉が象徴的だ。建築史・構造・設備・デザインといった多様な視点が交差する中で、“有名建築”という概念自体をアップデートする試みが進められた。 ...

